『あすんもん』

まえがき

『あすんもん』は2004年に執筆された。

あすんもんとは、おもちゃという意味である。
あそぶものが博多弁で発音すると、あすんもんとなるらしい。

では、江戸っ子の浦山明俊にはあすんもんとはどういう意味に聞こえたか。
作品のなかで確かめていただければと思う。

あすんもん 全1話完結

福岡県、博多の歓楽街、中州のカジノでディーラーとしてカードをさばく竹内正朝は、客のいかさまを見破る。それを逆恨みされ、カジノ店を出た雪道でいかさま客から刺される。
「死ぬんだ」
正朝は、死を怖いとは思わなかった。
生きる意味なんて、この世にはないと思う正朝は意識を失っていく。

救ったのは、ディーラー仲間の隆史だった。アメリカンバイクに乗り、ソープランド通いを自慢する隆史、京都の老舗織物店の跡取り息子でエリート大学に在籍していた大介は、やはりカジノのディーラーとして希望のない恋愛にのめり込んでゆく。育児放棄され極貧生活からカジノの店員になった純平。かつては新聞記者として社会悪を糾弾していた深尾店長、謎の刑事、渡辺謙。正朝の命を救った闇医者の初老紳士、小島。ギャンブル客のニコジさんは、負けてもいつも笑っている。バナナを握りながら賭けるゴリさん。痩せぎすのネズミじいさん。

そして正朝もまた、薫と出会い、心の氷結がしだいに溶けていく。

正朝は川端飢人地蔵の前で、謎の少女に出会う。

博多の祭り、祇園山笠。午前5時。
正朝の命がけの賭けと、山笠を担ぐ男たちの心意気と、カジノに青春をかけた仲間たちの運命が、夜明けの博多の街を疾走してゆく。

果たして正朝が賭けたものとは何だったのか?。

浦山明俊より

『あすんもん』は、デビュー作の『東京百鬼』(2006年3月)祥伝社よりも、前に執筆した作品です。

福岡県博多区の春吉という街にウィークリーマンションを借りました。
1ヶ月ほどかけて、朝から深夜まで博多の街を歩き廻りました。
博多っ子たちの会話に耳をそばだてました。

『あすんもん』は博多の街で取材に応じてくれた山のぼせ(博多山笠に夢中な男たち)たちと、その恋人や妻である、ごりょんさんたちへの返礼だとばかりに執筆をしました。

『あすんもん』もまた、私のパソコンのハードディスクに眠っていた作品です。

櫛田神社の銀杏の樹や、通い詰めたゴボ天うどん店の若旦那の顔や、ゴマサバ定食を運んでくれたごりょんさんや、そして博多祇園山笠を担いで疾走する男たちの雄叫びが、懐かしく思い起こされます。

奮い立て日本文学、立って寂しき心を揺すれ